ブラックホールにはロマンが詰まっている

ブラックホールと聞いて最初に思い浮かぶのが、スーパーロボット大戦でお馴染みのシュウ・シラカワ博士が乗るロボット「グランゾン」の必殺技、ブラックホールクラスターだという人はいませんか。もし共感する人がいましたら、ぜひガッチリと握手したい。

ブラックホールクラスター
シュヴァルツシルト半径が量子サイズのマイクロブラックホールを特殊な重力フィールド内部に生成し、それを目標へと射出することで着弾点を中心とした周囲一体を吸収、消滅させる必殺技。

ブラックホールとの出会いがグランゾンだったわたしは、ブラックホールは「つよい、こわい、カッコイイ!」というイメージが刷り込まれました。今でも大好きです、グランゾン

というわけで、今回はブラックホールについて考えてみたいと思います。

ブラックホールの特徴

ブラックホールはとても重い天体です。
「ホール」という言葉から宇宙にポッカリと開いた穴のようなものを想像する人もいるかもしれませんが、実体を持つ天体です。穴のように見えてしまうのは、内部からが出られないからです。

わたしたちは光によって物体を視認しています。
物体に反射した光がわたしたちの目に入ってくることで、そのモノの形や色、大きさや距離を感じることができます。

しかしブラックホールはあまりにも質量が大きく重力もとても強いため、光がブラックホールから出てくることができません。そのため、ブラックホールを目で見ることができず、そこにはただ真っ黒な穴のような空間があるとしか認識されないのです。この光すらも抜け出せなくなる境界線のことを「事象の地平面(Event Horizon)」と呼びます。

ブラックホールを直接観ることはできないため、重力に引かれて吸い込まれつつある物質が放出する特徴的なX線やガンマ線、可視光などを探すことで間接的にブラックホールを観測するのです。

ブラックホール
ブラックホールの想像図 Photo by NASA / JPL-Caltech

光すら外へ出ることができないような場所ですから、当然、人間も例外ではありません。一度ブラックホールに取り込まれると二度と外へ出ることはできません。
では、そのままブラックホールの中心まで真っ直ぐに落ちていくのかというと、そうではありません。

重力は中心に近づくほど強く働きます。地面の上にいる人と、高い山の上にいる人では体にかかる重力が異なります。地球上でしたら重力の差は微々たるもので、わたしたちはその違いをほとんど体感することはできません。しかし、これがブラックホールだと話はまったく違ってきます。

人間が足を下に、頭を上にしてブラックホールの中心へ落ちていくと仮定してみましょう。
ブラックホールの中心に近づくほど重力は強くなっていくため、より中心に近い足にかかる重力と外側にある頭にかかる重力には大きな差が出ます。地球では地上と山の上ほど離れていても重力の差はほとんど感じられませんが、ブラックホールの中では人間一人分の頭から足までの短い距離でも大変な力の差が生じます。

この重力の差は「潮汐力」と呼ばれ、これによって人間の体は大きく引き伸ばされてしまいます。
地球では月や太陽の影響により潮の満ち引きが起こりますが、これも上記と同じ潮汐力によるものです。

ブラックホールに吸い込まれてスパゲッティ化現象を受ける星
ブラックホールに吸い込まれてスパゲッティ化する星の想像図 Photo by ESO / M.Kornmesser / CC BY 4.0

この潮汐力によって人間の体はバラバラになってしまい、ブラックホールの中心へたどり着くまで人間としての原型を留めておくことはできません。この現象を「スパゲッティ化現象」と呼びます。

スパゲッティ化現象がどの地点で起きるかは、ブラックホールの質量によって変わってきます。
太陽質量程度の比較的小さなブラックホールでは事象の地平面を越える前に粉々になってしまいますが、太陽の数百万倍にも及ぶ巨大ブラックホールの場合は事象の地平面を越えたブラックホールの内側でこれが起こることもあります。

形成と蒸発

太陽の25倍以上の質量を持つ巨大な恒星は、生涯の最期に超新星爆発を起こすことがあります。
このような重い星は中心部の重力が非常に強くなるため、どんどんと収縮が進んでいき、物質の最小構成単位である素粒子レベルまで圧縮されてしまいます。その結果生み出されるのがブラックホールです。

どのくらい圧縮されているかというと、半径1cm足らずの小さな球が地球よりもずっと重くなってしまうほどです。そんなにも重い物があるなんて、ちょっと信じられないですよね。
ブラックホールの境界である事象の地平面とは「それより先はわたしたちの常識、物理法則の範疇を超えた領域ですよ」という意味です。なので、想像できなくて当然とも言えるかもしれません。

知れば知るほど、こんなとんでもない天体が存在するのか疑わしく思えてしまいますが、本当に実在しています。2019年には史上初めてブラックホールを直接撮影することに成功し、大きな話題を集めました。

事象の地平面
史上初めて直接撮影されたブラックホールの事象の地平面 Photo by EHT Collaboration / CC BY 4.0

その圧倒的な重力で周囲のものを吸い込み続けるブラックホールですが、取り込んだ物質によって質量をさらに増大し、果てしなく巨大化していくように思えませんか?
ですが、そうではありません。ブラックホールは蒸発するのです。それが有名なスティーブン・ホーキング博士の主張した「ホーキング放射」です。

少々難しいためざっくりと簡略化して説明しますが、ホーキング放射についてきちんと知りたい方は是非書籍などを読んでみてください。とても面白いですよ。

まず前提として、真空中では絶えず粒子(電子)反粒子(陽電子)が生まれ続けています。

なにも存在していないように思える真空にもエネルギーが存在していて、あるきっかけでエネルギーは粒子と反粒子のペアに変わります。ですがその状態は一瞬しか持続せず、すぐにまた粒子と反粒子は衝突してエネルギーに戻ってしまいます。
こうしてエネルギーから粒子と反粒子が生まれる現象を対生成、それらが再びくっついてエネルギーに戻る現象を対消滅と呼びます。

では、これがブラックホールの境界で起こるとどうなるでしょう。
対生成によって生まれた粒子と反粒子は、本来ならすぐに対消滅を起こしてエネルギーに戻るところですが、ブラックホールの境界に働く強い重力に引かれた片方はブラックホールの中に、もう片方は境界から外へと出ていってしまいます。こうして、ブラックホールのエネルギーは少しずつ減少していくことになります。これがブラックホールの蒸発です。

ですが、この蒸発には途方もなく長い時間が必要となります。
ブラックホールが大きければ大きいほどその時間は長くなり、大質量ブラックホールと呼ばれるような超巨大なブラックホールでは、宇宙の寿命よりも長い時間が必要になると言われています。

大質量ブラックホール

大質量ブラックホールとは、銀河の中心にあると考えられている太陽の100万倍以上の質量を持つブラックホールです。超新星爆発によって生まれるブラックホールの質量がおおよそ太陽の10倍程度であることを考えると、いかに桁違いか分かると思います。
わたしたちの属する天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ「いて座A*(エースター)」という大質量ブラックホールが存在しています。

いて座A*
いて座A*(Sgr A*) Photo by NASA/CXC/Caltech/M.Muno et al.

大質量ブラックホールの形成については、複数のブラックホールが合体したという説や、多くの星間ガスや破壊した星を取り込んで成長したという説などがありますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。

ですが、このような銀河の中心にある巨大なブラックホールが銀河の形成や、わたしたちの暮らす太陽系の進化にも大きく関わっている可能性は高いようです。

終わりに

ブラックホールはとても魅力的な天体です。

・内部の状況は謎に包まれている
・わたしたちの宇宙の法則が通用しない
宇宙が終わる瞬間まで蒸発し続ける

心をくすぐる言葉たちにワクワクしてきませんか?
そう、それがロマンです。

書ききれなかったこともたくさんありますので、今後もまたブラックホールについてご紹介していきたいと思います。

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