地球で暮らすわたしたちにとって、もっとも身近な天体が月です。
帰り道でふと夜空を見上げたとき、月が大きく綺麗に輝いているとつい嬉しくなります。
そんな地球の夜を彩る月ですが、ただ美しいだけのモノではありません。
わたしたちの生活に深く関わっている、重要な存在なのです。
今回はそんな月について、少し考えてみましょう。
地球唯一の衛星
月は地球の衛星です。
衛星とは惑星の周囲を回っている(公転している)天体のことで、地球の衛星は月ひとつだけです。
大きさ | 直径 約3,475km |
質量 | 約7.347×1022 kg |
公転周期 ※1 | 約27.3日 |
地球からの距離 | 約384,400km |
大きさは地球の約4分の1で、質量も81分の1ほどです。そのため月の重力は地球よりもずっと小さく、6分の1しかありません。
月へ行った宇宙飛行士がぴょんぴょんと跳ねるように歩いている映像を見たことがあるでしょうか。あんな歩き方ができるのも、月の重力が地球よりもずっと小さいためなのです。
月は地球の周りを楕円に回っているため距離はその時々で違っていますが、おおよそ東京とニューヨークの間を18往復するくらいの距離にあります。
この距離を遠いと感じるか、もしくは近いと感じるかは人によるでしょう。しかし、辿り着けると確信した人たちがいました。
彼らが非凡な知恵を結集し、ついに月へと降り立ったのは今から50年も前のことです。
月の誕生
どのようにして月が生まれたのか。
それについては諸説ありますが、最も有力だと考えられているのが「ジャイアント・インパクト説」です。
誕生初期の地球に火星ほどの大きさの惑星が衝突し、その際に生じた破片から月が形成されたという説。
この他にも、大きな惑星が衝突したのではなく、直径10km程度の微惑星が20回ほど衝突することで月が生まれたとする「複数衝突説」などもあります。
いずれにしても、地球の破片を基にして形成された月は地球とは血を分けた兄弟のような天体だと言えるかもしれません。
月の逸話
人々はずっと昔から身近な存在であった月に様々な思いを抱き、活用することで生活を豊かにしてきました。その例をいくつか挙げてみましょう。
太陰暦
月は日ごとにその様相を変えていきます。
新月、三日月、半月、満月など、その時々の太陽から届く光の角度によって見かけが変わるのです。
新月から次の新月、あるいは満月から次の満月までの周期を「朔望月」と呼びます。
新月は「朔」、満月は「望」とも言われることからこの呼び名がついているのですが、朔望月は約29.5日の周期でめぐってきます。
先ほど月の公転周期は約27.3日だと書きましたが、もしかすると、こう思う方もいるかもしれません。
「月が地球を一周するのが27.3日なら朔望月も27.3日じゃないの? どうして29.5日?」
地球を一周してきて同じ場所に戻ったら月の見え方も同じになるだろう、と思いませんか。
ですが、そうではありません。
月が地球を回っているあいだに、地球も太陽のまわりを回っています。
つまり、月が27.3日かけて地球を一周してきた時には太陽の位置が変わってしまっていて、太陽からの光の当たり方も以前とは違ってきてしまいます。
そのため、朔望月は月の公転周期とは一致せずに29.5日となるのです。
前置きが長くなりましたが、この朔望月を利用して人々は暦を作りました。それが太陰暦です。
月が見えなくなる新月から次の新月までの朔望月をひと月として、一年間を12か月、約354日としていました。
かつての日本ではこの太陰暦に太陽の動きも加味した「太陰太陽暦」を採用していましたが、明治5年(1872年)12月3日より現在わたしたちが利用している太陽暦(グレゴリオ暦)に変更しています。
テレビなどで「旧暦」という言葉を耳にすることがあるかもしれませんが、あれはこの「太陰太陽暦」のことを指しています。
月のウサギ
月の模様が「ウサギが餅をついている」ように見えることから、古来より日本では月にはウサギがいるとされていました。
また、海外ではウサギではなくカニの姿や女性の顔になぞらえる国もあります。
これは感性の違いだけでなく、地域によって月の見え方が多少変わってくるということが原因です。下の写真3枚は、それぞれ模様の位置が異なっています。
日本から遠く離れた場所では「月の模様が上下反対に見える」ということも起こるのです。
竹取物語
日本最古の物語とされる竹取物語は月を題材としています。
いつも空に浮かんでいる身近な存在でありながら、そこがどんな場所なのか知ることができない。
人々はそういった不可知のモノについて想像を働かせ、物語という財産を生み出してきました。
月が人類の想像力を育む一助となったのは間違いないでしょう。
月と地球の深い関係
月は最も地球に近い天体であり、地球に様々な影響を与えています。
いくつか例を挙げてみましょう。
潮の満ち引き(潮汐)
満潮、干潮という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
満潮とは海水面が高くなる現象のことで、干潮はその反対で海水面が低くなる現象のことです。これは月の引力が地球に及ぼしている影響で、「潮汐」と呼ばれるものです。
引力とは質量を持つモノが周囲のモノを引き寄せるという物理法則で、わたしたちが地球の上に立っていられるのはこの引力のおかげです。引力は質量が大きいほど強く、また距離が近いほど強くなります。
月が近づいている地域(月が上空にある地域)は引力によって月へと引っ張られるため海水面が高くなります。こうして満潮が起こるのですが、実はこの満潮になっている地域の反対側、つまりは地球の裏側でも海水面が上昇して満潮になります。
「どうして反対側が?」と不思議に思われるかもしれませんが、これは地球に働いている遠心力が関係しています。
遠心力とは回転している物体を外側へ引っ張っているように見える力のことです。
遊園地でジェットコースターに乗ったことがあるでしょうか。もしあれば、カーブを曲がるときに体が外側へ飛んでいきそうになる感覚を経験されたことがあるかと思いますが、あれが遠心力です。
遠心力は地球上のどこでも発生していますが、月から遠ければ遠いほど月の引力は弱くなるため、相対的に遠心力の力が強まります。そのため、月から遠い地球を隔てた反対側にある地域でも海水面が上がって満潮となるのです。
月の引力と地球の遠心力によって地球上にかかる力が地域ごとに変化し、満潮、干潮が引き起こされています。
この「潮汐」については、月だけでなく太陽の引力も関係しています。
月と太陽の両方の引力が合わさって満潮と干潮の高低差が最も大きくなる時を「大潮」、それぞれが引力を打ち消し合うような位置にあって高低差が最も小さくなる時を「小潮」と呼びます。
また、潮汐については海水面の上昇以外にも地球に影響を及ぼしています。
そのひとつが地球の自転です。
地球の自転
自転とは天体がコマのように回ることで、地球がちょうど1回転するまでのあいだを1日と定めています。地球は約24時間をかけて1回転していますが、この24時間というペースは月から多大な影響を受けています。
先ほど書いたとおり、月の潮汐作用によって地球上の海水が移動しますが、その際に海水と海底とのあいだで摩擦が生じます。これにより地球の自転にブレーキがかかっており、自転速度に影響を与えているのです。
数十億年前には月は今よりもずっと地球の近くにありましたが、その時の地球の1日は4時間ほどだったそうです。
地球の自転に影響を及ぼしているのは月だけではありませんが、月の影響は他に比べて最も大きいです。もしなんらかの理由で月がなくなってしまったら地球の自転速度は今の数倍になり、23度ほどで安定している地軸(地球の傾き)も不安定になってしまいます。
そうなると地球の環境は激変してしまい、人類やその他の生物にとっても非常に住みづらい惑星となってしまうでしょう。
生態系への影響
月の恩恵を受けているのは人類だけではありません。月の運行と生殖活動が密接に関係している生物もいます。
サンゴは大潮となる時期に産卵を行うことが多いそうです。その理由は、潮位の差が大きくなることを利用して卵を遠くまで運ぶためだと考えられています。
卵を広い範囲に送ることで天敵から狙われる確率が下がりますし、より生存に適した場所に辿り着く可能性もあります。それらはすべて、生き残る子孫を少しでも増やそうとする生存戦略です。
同様の理由で、カメやカニなども大潮となるタイミングで出産を行うことが多いそうです。こういった生物がどのようにして大潮の時期を把握しているのかはまだはっきりとは分かっていません。
しかし、一部の生物が月の恩恵を利用して賢く生き残っていることはたしかなようです。
終わりに
今回は月について考えてみました。
人類が月へと挑んだ歴史や、今後の月探査の計画などについてはまた別で書きたいと思います。
よろしければ、そちらもご覧ください。